avenge
1-3.
ほとんどの行程を歩いてねぐらの木のところまで戻り、一度大きく伸びをして、体を伸ばすようにしながら本来の姿を思い出す。歩いてくるあいだに既に空にしてしまっていた卵の籠が、支える手を失って、すとん、と地面に落ちた。
するすると木を登り、元通り、中程のほどよい太さの枝の上へと戻る。近い高さの梢からは鳥たちの警戒の声が聞こえてくるが、しばらく放っておけば収まるだろう。
身体を丸めて目を閉じる。
ここを出発したときには、こんなことになろうとは思ってもみなかった。成人を迎えたら一度は郷から出るという数代前からのしきたりを、面倒だと思った時も恨めしく思ったこともあったが、案外自分たちは、人と暮らすようにできているのかもしれない。
……だからきっと、あの男が例外だったのだろう。
もちろん少しでも思い返せば最悪の気分になるが、あんな人間ばかりではないということはわかった気がした。少なくとも人の側にあることを、もう一度試してみてもいい、とは思えた。
今日の出来事を思い起こす。あの少年、エーミールのことを。
その無防備で無邪気な感情は嘘ではないだろうと思う。少なくとも自分に対する害意はなかったはずだ。あったならどうとでもできていたのだから。
けれど一点の曇りもなく善良であるとも言えない。未遂とは言え、卵を盗もうとした自分の意図をエーミールは理解していた。わかっていたくせに咎めもしなかった。当たり前のように飲み込んでいた。
火かき棒を突きつけたあの時、自分がエーミールを傷つけてしまっても構わないと思っていたことも、たぶん知っていただろう。……確かに結果として怪我はさせなかったが、自身に向けられた敵意をああも簡単に許せるものだろうか。
……この町の外から来た人と話がしたい、というのが本当だとしたら、それは彼にとって、どうしてそこまで優先できる願いだったのだろう。
考えているようなふりをしながら、いつの間にか思考がほどけていく。閉じた瞼の裏で、少しずつ明るさと温かさが減じていくのを感じた。まだ早い時間だがもう眠い。
明日は早く起きて、エーミールへの礼を設えるとしよう。そう思いながら、ヤンは眠りについた。