avenge
7-7.
ほぼ完全に俯瞰になる高さまで一挙に上がった。広く、大部分がかなり平らな大地だ。先ほどの地図を思い浮かべ、今離れてきた町と森、太陽の方向から、南東の大きな町とやらの方角をイメージする。
彼らの飛行は翼による物理的なものではなく、変身と同様に何らかの魔術的な仕組みによるものだった。かといって翼を失えばやはり飛べなくなる。飛行のコントロールに絶対に必要な部位なのだ。
その両翼を鋭く広げ、方角を定めて飛行を始めた。もっと速く、もっともっと速く、とイメージする。夜でも飛べるが方向を見失いやすい。午後のうちにできる限り進んでおきたかった。
……そうしてヤンがその町に到着したのは、翌日の朝日を見て数時間後だった。ぎりぎり正午には至らない。物陰に降り立って、最初に出会った通行人に薬屋の場所を聞く。一軒目は外れだったが、ケヴィンという移動商人が買い物をしている薬問屋を知らないか、と聞いたら、商売敵だろうに親切にも教えてくれた。
聞いた店に大急ぎで駆け込み、叫ぶ。
「すいません! ここでケヴィンさんって移動商人が薬買ってますか!」
眼鏡に刈り上げ髪の店員はぎょっとした顔をしていたが、思い出したのかやがて頷く。
「ケヴィンっていうと、自分のことを『あっし』っていうケヴィンかな? ここんとこに大きな黒子がある?」
「そうその人! ちょっと手違いがあって、その人が買ってた薬が欲しいんだ! ……です!」
「まあ慌てないで、こういうのはちゃんと確認しないといけな──」
帳簿をめくっていた店員の目つきがわずかに変わるのをヤンは見る。
「……もしかしてお前ジギタリスの客か? 処方箋あるかい?」
「ないけど、売ってもらってた薬の名前なら、これだって」
ケヴィンの人相書き部分をちぎり取り、残りのメモを渡すと、店員が、あああ、と声を漏らす。
「……どうもあいつの顔色がおかしいとは思ってたんだ、畜生、やっぱり問題起こってるんじゃないか! ちょっと待ってな!」
「……! はい!」
店員が奥に引っ込んで何かがさがさと用意している間、ヤンはカウンターの前で座り込んでいた。全力で飛んできて全力で走り回ったので疲れている。エーミールが帰宅する間に森ででも食事をしていればよかったな、と思ったが仕方ない。そんな気になれる状況でもなかった。
……それにしても。
ケヴィンがここで薬を買ったときに顔色がおかしかったとすれば、彼はわかっていて違う薬をエーミールに売ったことになる。そうだとすればそれは一体なぜなのか──
思っていたら、頭上のカウンターから声が降ってきた。
「待たせたな。うちは本来問屋だから一般客には売らないんだけど事情が事情だ、持っていってくれ。今回こそ正しい調合だから心配せず使って大丈夫だ」
すとん、と手の中に、中身のみっちり詰まった紙袋が落とされる。
「……って、お金は?」
「要らないよ、お前みたいな子供が必死で走ってこなきゃいけないようなトラブルが起きたんならおれの責任だから! 済まなかったな!」
ぱん、と手を打ち合わせて店員が拝むような仕草をする。
「…………わかった、あんたいい人だな!ありがとう!」
久々の他人からの子供扱いに一瞬引っかかりかけたが、そんな場合でもない。ヤンは薬を鞄に突っ込んで、薬屋を飛び出した。